日本人とマレーシア人の両親の元、シンガポールで育った並木マークさんは、シンガポール人の妻メリッサ・ヤップさんと共に6年前に来日しました。日本での子育てを楽しみつつ、本格的なシンガポール料理を日本に広めようと決意し、活動を続けています。
ふたりの日本への愛のはじまり
― 日本に来たきっかけは?
妻と一緒に日本で暮らしてみたいと思い、最初は1年契約の仕事を得て来日しました。来日前に妻が妊娠していることがわかったのですが、予定通り日本に行き、日本で出産することにしました。出産時の病院の素晴らしい対応と経験から、日本は住みやすく親しみやすく、子育てに理想的な場所だと実感しました。その経験から私たちは滞在を延長することを決め、今では日本で暮らして6年になります。妻と子供たちと日本での生活を満喫しています。
― 日本のどんなところが一番好きですか?
日本の一番好きなところは、四季がはっきりしているところです。一年を通していろいろな食べ物が食べられ、季節ごとにさまざまな天候に恵まれるところも好きです。季節と共に刻々と変化する景色は驚くほど美しく、不思議な感覚を与えてくれます。
また、日本での生活水準は高いです。リーズナブルな価格と高品質の製品・サービスにより、快適に生活することができます。日本における生活の利便性には目を見張るものがあります。ランチを食べるために自転車で家に帰るのも簡単ですし、食料品も選択肢が豊富でなんでも手に入ります。もちろん、外国人にとってはつらい場面もあります。例えば、印鑑やFAXがまだ使われていること、銀行振込の複雑さなど。日本ではなかなか変わらない面もあります。
― 家族で暮らすうえでも日本は快適ですか?
そうですね。私が日本を好きであるもう一つの理由は日本人の人柄です。たくさんの親切な人に出会えて私たちはラッキーだと思います。初めて日本に来て、妻が妊娠7カ月だったとき、私たちは日本語を話せませんでした。でも、私たちにとても親切にしてくれた75歳の女性がいました。産院に一緒に行って通訳をしてくれて、娘が生まれたときも、最初に会いに来てくれたのはその方でした。市役所や幼稚園での手続きも手伝ってくれました。私にとって日本でのお母さんみたいな方です。
私にとって、日本は非常にファミリーフレンドリーです。ほとんどのショッピングモールのトイレには赤ちゃん用の更衣室やオムツ替え台があり、スーパーマーケットには子供用のベビーカーがあります。公園や道では、私の娘を見ると「かわいい!」と声をかけてくれる人がたくさんいます。また行政でも子育てをサポートしてくれています。妻は初めて出産するにあたり区が実施する講習会に行き、オムツの替え方や注意点、授乳についてなどを学びました。
文化の多様性と違い
― マークさんは日本人とマレーシア人のミックスで、シンガポール育ち。いろんな文化を経験されているのですね。
ハーフの日本人が多く経験していると思いますが、自分がどこに属しているのかと聞かれると複雑な気持ちです。日本語が話せないから「偽者の日本人だ」と言う方もいらっしゃるかもしれません。他方、私はシングリッシュ(シンガポール人の話す英語)は話せますが、シンガポール人とは言えません。日本語が流暢に話せるわけではないので、日本に住む日本人からすれば「外人」と思われるでしょう。実際に、私は外国人という気持ちで日本に来ました。
「ハーフ」ではなく「二重国籍」という言い方はありがたいと感じます。私は国際的な家族をとても誇りに思っています。私は日本のパスポートを持っていて、妻はシンガポール、母はマレーシア、兄はオーストラリア、兄の妻は韓国のパスポートを持っています!
― シンガポールと日本の文化の違いにはどのようなものがありますか?
特に労働文化が違います。一番大きな文化の違いは、シンガポールでは率直に話しをするところでしょうか。日本の職場で働き始めたとき、場の読み方や調和を学ぶ機会を得ました。何をしろとは言われませんが、他の人が何をしているかを観察し、同じことをしようとするのです。それが日本人の言う「空気を読む」ということです。
また、以前は一度も海外に行ったことがない日本人シニアの方々に英語を教えていたのですが、その中で文化の違いを感じました。授業の中で、どんな週末を過ごしたのかなど話しながら、時には 「最後に夫や妻に『愛してる』と言ったのはいつ?」といったトリッキーな質問を投げかけてみました。彼らの多くは一度も言ったことがないと言うので驚きました。また、結婚生活を長続きさせる秘訣について話すのも好きです。「夫や妻の誕生日には、ハグとキスをしますか?」と聞くと、彼らの答えはいつも興味深く、ほとんどの方が「そんなことはしない」と答えます。日本の文化では、愛情や感情を言葉であからさまに表現することを避ける傾向があることを知っている私は、あえて彼らに提案してみたりします。「今日家に帰ったら、いつもありがとう、本当に感謝しています」と伝えてみたらどうだろう、たとえ「愛している」という言葉を使わなくても、このような小さなジェスチャーが大きな違いを生むかもしれないよ、と。
足立区のシンガポール人コミュニティ
― 日本とシンガポールをつなぐ活動として、最も印象に残っていることを教えてください。
私は人と人をつなぐことが大好きなので、カフェをオープンしました。お客さん同士で話したり、LINEやインスタグラムの連絡先を交換したり、友達作りもできる人気スポットとなりました。例えば、静岡に住んでいるシンガポール人の女性がいます。彼女は和菓子を学んでいて、現在は和菓子屋で働いています。彼女が東京に出張した際、シンガポール料理を食べに私の店を訪れました。他のお客様と仲良くなって、それ以来、来店するたびに美味しい和菓子を持参して下さいました。
― カフェの運営で難しかったことはありますか?
カフェをオープンしたのは、新型コロナウイルスが大流行し、すべてが封鎖されたからでした。私の目的は、普通の生活の感覚を取り戻すことでした。私は足立区に住んでいるのですが、東京にはシンガポール料理の店がほとんどないことに気づきました。私はラクサを作るのが好きで、友人に食べてもらったらとても好評だったこともあり、お店として提供してみようと思いました。
飲食業界は新型コロナの影響を大きく受け、最初はお客様も少なかったです。カフェを広めるために、シンガポール大使館やASEANの学生団体などが支援するチャリティーイベントやパーティーを開催しました。クラウドファンディングのプロジェクトも実施しました。
横浜や川崎、川口、さらには茨城や大阪など遠方から足立のカフェに足を運んで下さるもいらっしゃいましたが、地元のお客様にはなかなか来ていただけませんでした。これが私たちの課題でした。
現在カフェを閉店しましたが、オンラインショップを運営し、日本で本格的なシンガポール料理を提供するためにケータリングを行っています。困難もありますが、私たちは足立区の人々にシンガポール料理を紹介し、私たちの料理への愛を分かち合いたいという決意を持ち続けています。努力を続けて、口コミを広げ、好意的なレビューをもらうことによって、より多くの地元の方々が私たちの料理を理解し、楽しんでくれるようになると信じています。私たちは粘り強く、地元でシンガポール料理を広めるという強い思いにまい進することを約束します。
― 最後に、シンガポール料理について教えてください!
シンガポール料理は非常に多くのテイストを持つユニークな料理です。シンガポールは様々な文化が混ざり合っていて、それが料理にも反映されています。ラクサにもたくさんの種類がありますが、私たちが好きなのはニョニャ・バージョンで、濃厚でクリーミーなスープが特徴です。
並木マーク
シンガポール育ちの日本人/マレーシア人。足立区でリトルマーライオンカフェ(現在はオンラインショップ/屋台のみ)を経営。
Instagram: https://www.instagram.com/littlemerlion_tokyo/
取材・文/Mimi Le 写真提供/並木マーク