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昆虫専門家が「昆虫食」で取り組む! ラオスの栄養改善【佐伯真二郎さん】

美しい田園風景が広がるラオスは米どころであるだけでなく、昆虫を食べる国としても知られています。昆虫専門家で、昆虫食を楽しむ「蟲ソムリエ」や「おいしい昆虫生活®︎」プロジェクト主催者としても知られる佐伯真二郎さんはその専門性を活かし、ラオスで昆虫食を通じた栄養改善に取り組んでいます。

日本から見るとトリッキー!?
昆虫食で栄養改善

―ラオスでの昆虫食による栄養改善とはどんな活動なのでしょうか。

私は昆虫専門家としてラオスに滞在し、昆虫養殖指導や栄養ボランティア養成を行っています。ラオスでは特に母子の栄養不良という長年の課題があり、現地で身近な食材である昆虫に着目して栄養改善ができないかというところから活動が始まりました。初めは2017年から味の素ファンデーションの助成で3年、その後はJICA草の根技術協力事業(NGO法人ISAPH、NPO 法人食用昆虫科学研究会共同)として活動を続け、今年で5年目になります。

―最初はどんなことから着手したのでしょうか。

まずは栄養調査のためのアンケートを作り、調査に昆虫の項目を入れるところからスタートしました。

昆虫との比較対象としたのが大豆、牛肉、豚肉、鶏肉、あと卵です。卵は1週間に1回以上食べる人が70%以上。そしてそれと同じくらい季節の昆虫がよく食べられていたんですね。冷蔵庫が普及していないので、牛肉、豚肉、鶏肉は冠婚葬祭用などイベントで食べられるため、日常の食卓では登場しません。こういったことから、毎日の食事と昆虫との相性は悪くないなという目星をつけました。

―そこから昆虫養殖の開発などに取り組まれたのですね。

最初はタンパク質が不足していると考えていたのですが、栄養調査が実際に進むとカエルや魚、昆虫など野生の食材からとることでタンパク質は足りていた。それに比べると油の摂取量がすごく少ないことが特徴的でした。そこで不足している栄養が補えるような昆虫養殖を選択しました。

―どんな昆虫を養殖しているのですか。

ヤシオオサゾウムシという油をたっぷり含む虫をたくさん養殖しています。ラオスのゾウムシは日本の最大種、オオゾウムシよりさらに大型で、幼虫は身がたっぷりしていてとても食べごたえがあります。ラオスではスープに入れたり、炭火でじっくり焼くのが一番普及している食べ方です。

プリプリとしたゾウムシが順調に育っているコンテナ。1つのコンテナで1ヶ月育てると最大1kg、300頭ほどの食べ頃のゾウムシが収穫できる。/ Container with well-grown plump weevils. Weevils can yield up to 1 kg or 300 well-fed weevils if grown in one container for a month.

―佐伯さんたちの活動に対して、現地のみなさんの最初の反応はいかがでしたか。

日頃食べているおいしいものが養殖でたくさん増えるならいいね、と。この気軽な反応が活動のしやすさにつながりました。日本から見るとすごくトリッキーなプロジェクトに見えるかもしれませんが、日常的に昆虫を食べるラオスから見たらマイルドなアプローチなんじゃないかなと思います。

ちなみに現地のみなさんには「アーイタカテン(バッタ兄さん)」と呼ばれています(笑)。最初はバッタを養殖しようとしていたので。

昆虫養殖で目指す
母子の栄養と暮らし改善

―昆虫養殖はどのように広まっているのですか。

まず養殖の先生になる世帯にノウハウを指導し、彼らがさらに周りの人に教えていきます。養殖した昆虫を売れば現金収入にもなるし、おいしいし、ご近所がやっているからうちもやろうか、とうくらいの感覚でやってもらって、養殖世帯の世帯数を増やすというのを第一目標にしています。

ちなみに、キャッサバ栽培だと乾燥したキャッサバの買い取り値が1kg20円ほどのところ、ゾウムシは35日で収穫できて1kg600円ほど。ご近所さん同士でお得だからやろうよって、いいコミュニケーションにもなっていると思います。

昆虫養殖トレーニングと同時に栄養教育を受ける生徒たち / Students undergo nutritional education along with insect farming training

―はじめに特に母子の栄養不良が問題とおっしゃっていましたが、その点ではいかがでしょうか。

じつは最初に養殖の先生になる世帯を選出した結果、全員が女性だったんです。そのこともああって、小さな子どもがいてなかなか外に行けない女性でも、家で子どもと一緒に養殖できるような活動もスタートしています。母乳が必要な乳児期に母親が出稼ぎなどで離れてしまうと、子どもにとってはハイリスクな栄養状態になってしまいますから。スモールスタートでまだパワー不足ですが、今後も続けることによって、乳幼児を置いて親が出稼ぎに行かなくてもいいようにしたい。栄養改善もですが、生活の質も改善されていけばと思います。

村の養殖の先生が、生徒に教えている様子。先生ごとに我流になってしまいがちなところを、補正して正しい知識を習得してもらう。/ Village farming teacher teaching students. Let teachers correct what tends to be their way and acquire the correct knowledge.

―改めて、昆虫学をやっていたからこそうまくいったこと、よかったと思うところとは?

ラオスのみなさんは昆虫を食べたり、そのおいしさを知っていたり、食経験は私達とは比べものにならないほど豊かですが、情報が整理されていないので、この昆虫が食べれるかどうか、この幼虫の成虫はどんな虫か、学名やその論文にたどり着ける人がいませんでした。養殖がうまくいかないときも、昆虫学的な実験をやったことがないと、YouTubeなどで適当な情報を集めて信じてしまうんですね。そういう意味で、体系化された昆虫学を学び続けて、さらに日本のエキスパートに尋ねたりして、どうにかやっていますし、彼らに必要なのは昆虫学だともわかりました。あらためて大学院で「昆虫学」を学んで良かったと思いました。

NGOの活動から
ビジネスへつなげたい

― 佐伯先生の今後の展望を聞かせてくだい。

今の活動は助成金をいただいての活動ですし、昆虫食が「あたらしい」から応援してもらえています。今後はNGOとしての活動からビジネスへ移行し、収益化してくことが必要だと考えています。移行期に対して手を差し伸べてくれる人や団体、仕組みがあったらいいなと考えているので、開発した普及アプローチなどを他のNGOにも紹介していきたいですね。

佐伯真二郎さん

ラオスで応用昆虫学と国際保健学の学際分野を構築中。JICA草の根技術協力事業プロジェクトマネージャーとして、昆虫養殖による所得栄養向上のためのアプローチを開発中。主宰する「おいしい昆虫生活®︎」プロジェクトではハードな実践とソフトな表現の統合により、昆虫食に関わる人が正当な対価を得る未来を目指す。2015年神戸大学農学研究科博士後期課程単位取得退学。2014年よりNPO法人食用昆虫科学研究会理事長。

取材・文/室橋織江 写真提供/佐伯真二郎

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Business Food & lifestyle
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