2025年3月17日、日本アセアンセンターとタイ商務省貿易交渉局(DTN)は、バンコクのイースティングランド・パヤタイホテルにて「グリーン経済に向けた中小企業支援:日タイ協力の新たな章」をテーマにしたセミナーを共催しました。
本セミナーは、気候変動や持続可能性といった課題によって急速に変化する国際貿易環境に適応するために中小企業を支援し、タイと日本の協力関係の強化を図ることを目的として開催されました。参加者は、持続可能な開発、グリーンイノベーション、および両国の中小企業にとっての新たな機会について活発に議論を交わしました。本セミナーは、駐タイ日本大使館、経済産業省(METI)、JETROバンコク、タイ中小企業振興庁(OSMEP)の気候変動・環境部門、タイ輸出入銀行(EXIM Thailand)、カシコン銀行からの支援を受けて実施されました。
開会式
スチャット・チョムクリン商務副大臣による歓迎の挨拶
スチャット・チョムクリン商務副大臣は、タイと日本の強固な経済的結びつきを強調しました。2024年、日本はタイにとって第3位の貿易相手国であり、両国間の貿易額は520億2,000万米ドルに達しています。また、日本はタイへの最大の投資国でもあり、約6,000社の日本企業がタイで事業を展開しています。2022年に、両国は関係を包括的戦略的パートナーシップに格上げしました。2025年には、両国の外交関係が138周年を迎えます。地政学的変動や気候変動などのグローバルな課題に対応するため、両国は日タイ5か年経済パートナーシップアクションプランや日ASEAN経済共創ビジョンを通じて協力を深めています。
大鷹正人駐タイ日本国大使による挨拶
大鷹正人駐タイ日本国大使は、タイと日本の緊密な協力関係について言及し、特に両国の経済と貿易の発展が重要な課題であることを強調しました。同氏はサプライチェーン全体のCO2排出量を可視化するクラウド型ソリューション「Zeroboard」や、3分で急速充電できるバッテリーパックと充電ステーションを開発した「Naturanix」といった事例を挙げました。またグリーントランスフォーメーション(GX)およびアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)を通じて、2050年までのカーボンニュートラル達成に向けた日本の決意を改めて表明しました。
チャイラット日本アセアンセンター事業部長による挨拶
タイおよび日本の中小企業を支援するために日本アセアンセンターとタイ商務省貿易交渉局が協力するのは、今回で2回目であると説明しグリーン経済への適応が国際貿易の成功に不可欠であり、消費者がますます持続可能な製品を優先する傾向が強まっている現状を指摘しました。また、中小企業(SME)に対して、グローバルな持続可能性というトレンドを踏まえて、リスク管理と新規ビジネス機会の獲得に取り組むように提言しました。
セッション1:カーボンニュートラルと脱炭素化戦略に向けた日本のグリーントランスフォーメーション(GX)政策
- スピーカー: 経済産業省 GXグループ 地球環境対策室課長補佐 石丸明穂氏
日本のグリーントランスフォーメーション(GX)政策に関する講演を行い、2050年までにカーボンニュートラルを達成する目標に向けた取り組みについて説明しました。同氏は、再生可能エネルギー、水素、炭素回収に焦点を当てながら、エネルギー、輸送、産業分野での技術革新を強調しました。また、ASEANとの国際的な気候変動対策の協力や、脱炭素化によって生まれる新たな産業および雇用の機会にも言及しました。最後に、カーボンニュートラリティを達成するためには国際的な連携が不可欠であるとして、講演を締めくくりました。
セッション2:タイにおける中小企業の脱炭素化への道筋:国家目標と枠組み
- スピーカー:タイ天然資源環境省気候変動・環境局部長 キッティサック・プルッカノーン氏
キッティサック氏は、気候変動への対応と、タイの中小企業が持続可能な取り組みへ移行するための支援に対する政府のコミットメントを説明しました。同氏は、中小企業の脱炭素化努力を促進するために、業界間のパートナーシップ、技術導入、能力開発の重要性を強調しました。また、再生可能エネルギー、エネルギー効率、持続可能なサプライチェーン管理の重要性が増していることも指摘しました。
セッション3:国際貿易における中小企業:機会と課題
- スピーカー:タイ商務省欧州局長 チラット・イサランクン・ナ・アユタヤ氏
チラット氏は、特に地域貿易協定や越境取引を可能にするデジタルプラットフォームを通じて、中小企業が国際貿易に関与する機会について議論しました。
同氏は、中小企業が直面する課題として、貿易金融へのアクセスの制限、運転資金、規制の複雑さ、市場情報の不足などを挙げました。また、貿易促進措置、能力開発プログラム、貿易政策改革、国際貿易ネットワークへのアクセス強化などを通じた政府の支援がこれらの障壁を克服する上で重要であることを強調しました。
セッション4:タイの中小企業の強化によるグリーン経済の実現
- スピーカー:タイタイ中小企業振興庁(OSMEP)中小企業ビジネス推進部門長 ジラパン・スクナ氏
タイの中小企業の競争力向上におけるグリーン技術、循環型経済の原則、環境に優しい生産の役割を強調しました。同氏は、グリーンファイナンス、能力開発プログラム、イノベーションハブとのパートナーシップなど、グリーンビジネスモデルへの移行を支援するための支援メカニズムについて説明しました。また、持続可能性認証やエコラベリングの重要性を強調し、タイの中小企業が成長するグリーン経済の中で信頼性と市場性を高めるための手段として位置づけました。
パネルディスカッション1:タイの中小企業のためのグリーンファイナンス:よりグリーンな経済への移行を促進

パネリスト:
- ピチャヤ・シリヴンナブード氏 – サステナブルファイナンス専門家、アジア開発銀行(ADB) ASEANグリーン、ソーシャル、サステナビリティ、その他のラベルボンド(GSS+)付き債券コンサルタント
- ジャンチャイ・ピタクンノップ氏 – タイ輸出入銀行(EXIM Thailand)マーケティング戦略部長
- ポーンテープ・キッティパットパイブーン氏 – 中小企業開発銀行(SME D Bank)企業家支援・開発専門家
このパネルディスカッションでは、タイの中小企業が持続可能な経済へ移行するためにグリーンファイナンスが果たす役割について、サステナブルファイナンス、輸出信用、そして中小企業開発の専門家からの洞察が共有されました。討議では、グリーンファイナンスが中小企業に持続可能性を受け入れさせ、競争力を高め、タイの気候および経済のレジリエンスに貢献するために果たす重要な役割が強調されました。
パネルディスカッション 2: 日本とタイの企業家による成功事例と経験の共有
パネリスト:
- エカチャイ・ウアアリミトラ氏 – ラムチャバン・イメックス株式会社 副社長
- ジラロット・ポジャンアワラパン氏 – サエンチャローングランド株式会社 代表取締役社長
- ワラユット・サイブアトロング氏 – PTT株式会社 シニアリサーチャー
- 鈴木慎太郎氏 – ゼロボード(タイ)株式会社 代表取締役社長兼アジア太平洋地域ビジネス担当
このセッションでは、日本とタイの企業家が、グリーン経済の原則をどのようにビジネス運営に組み込んでいるかについて実際の事例を共有しました。パネリストたちは、革新的な戦略、持続可能な取り組み、そして業務効率の向上について議論し、自社がどのようにしてより環境に優しい運営へと移行しているかを紹介しました。

主なポイント:
- グリーンファイナンスが中小企業の支援において果たす役割への関心が高まり、セミナーではタイの中小企業が環境に配慮した取り組みに移行するために活用できるさまざまなイニシアティブや金融ツールが紹介されました。
- 日本は、2050年までのカーボンニュートラリティ実現に向けた強いコミットメントを、再生可能エネルギー、水素、カーボンキャプチャ技術などの技術革新を柱とするGX(グリーントランスフォーメーション)政策を通じて打ち出しています。また、気候変動への対応においては、ASEAN諸国との国際的な連携が重要であることも強調されています。
- 中小企業が直面する貿易資金へのアクセス制限や規制の複雑さなどの障壁が議論されましたが、地域貿易協定やデジタルプラットフォームを通じた国際貿易の機会も取り上げられ、政府の支援の重要性が強調されました。
- 両方のパネルセッションでは、競争力を高めるためのグリーンテクノロジーと循環型経済の原則の役割が強調されました。グリーンファイナンス、イノベーションハブ、サステナビリティ認証などの支援策がグリーン経済において中小企業が成功するための重要な要素として確認されました。

アジェンダ
時間 | プログラム詳細 |
08.30 – 09.00 | 受付 |
09.00 – 09.30 | 開会式 ・スチャット・チョムクリン商務副大臣による開会の挨拶 ・大鷹正人駐タイ日本国大使による挨拶 ・日本アセアンセンター チャイラット・リエンカジョンキエットによる挨拶 |
09.30– 09.40 | 来賓との記念撮影 |
09.40 – 10.00 | 休憩 |
10.00 – 10.30 | セッション1:カーボンニュートラルと脱炭素化戦略に向けた日本のグリーントランスフォーメーション(GX)政策 ・スピーカー: 石丸明穂氏 経済産業省 GXグループ 地球環境対策室 課長補佐 |
10.30– 11.00 | セッション2:タイにおける中小企業の脱炭素化への道筋:国家目標と枠組み ・スピーカー:キッティサック・プルッカノーン氏、 タイ天然資源環境省気候変動・環境局 部長 |
11.00– 11.30 | セッション3:国際貿易における中小企業:機会と課題 ・スピーカー:チラット・イサランクン・ナ・アユタヤ氏、 タイ商務省欧州局長 |
11.30 – 12.00 | セッション4:タイの中小企業の強化によるグリーン経済の実現 ・スピーカー:ジラパン・スクナ氏、 タイ中小企業振興庁(OSMEP)中小企業ビジネス推進部門長 |
12.00 – 13.30 | 昼食 |
13.30 – 14.30 | パネルディスカッション1:タイの中小企業のためのグリーンファイナンス:よりグリーンな経済への移行を促進 ・ピチャヤ・シリヴンナブード氏 – サステナブルファイナンス専門家、アジア開発銀行(ADB)ASEANグリーン、ソーシャル、サステナビリティ、その他のラベルボンド(GSS+)付き債券コンサルタント ・ジャンチャイ・ピタクンノップ氏 – タイ輸出入銀行(EXIM Thailand)マーケティング戦略部長 ・ポーンテープ・キッティパットパイブーン氏、中小企業開発銀行(SME D Bank)企業家支援・開発専門家 司会: チャンチット・ウォラポン氏 |
14.30 – 14.50 | 休憩 |
14.50 – 15.50 | パネルディスカッション2: 日本とタイの企業家によるベストプラクティスと経験の共有 パネリスト: ・エカチャイ・ウアアリミトラ氏 – ラムチャバン・イメックス株式会社 副社長 ・ジラロット・ポジャンアワラパン氏 – サエンチャローングランド株式会社 代表取締役社長 ・ワラユット・サイブアトロング氏 – PTT株式会社 シニアリサーチャー ・鈴木慎太郎氏 – ゼロボード(タイ)株式会社 代表取締役社長兼アジア太平洋地域ビジネス担当 司会者: チャンチット・ウォラポン氏 |
15.50 – 16.00 | 質疑応答 |
詳細については、info_bp@asean.or.jpまでご連絡ください。